一般に「英仏海峡トンネル」と聞くと、東京湾アクアラインのように自動車で海底道路を自ら運転して渡れると誤解している人が少なくない。しかし、英仏海峡トンネルは100%鉄道専用トンネルとして設計されている。自動車で海峡を越える場合、ドライバーは「ル・シャトル(Le Shuttle / 現在のEurotunnel Le Shuttle)」と呼ばれる専用の長大シャトル列車に車両ごと乗り込む形をとる。
イギリス側のフォークストン端末、あるいはフランス側のカレー(コケル)端末に到着した車両は、高速道路の料金所のようなゲートでチェックインを済ませ、そのまま専用プラットホームへと誘導される。ホームに横付けされたシャトル客車は側面の大型扉が開き、ドライバーは係員の誘導に従って車をゆっくりと自走させ、列車内部へと進入する。車室は完全密閉型のカセット構造になっており、乗用車向けの2階建て車両と、車高の高いワゴン・キャンピングカー・大型バス向けの1階建て車両に分かれている。
停車後はサイドブレーキを引いてエンジンを停止させ、乗客は車内に座ったままでも、あるいは車外に出て密閉された客車内の通路を歩いて移動しても構わない。走行中の揺れは極めて少なく、海底区間の所要時間はわずか約35分。揺れるフェリーに揺られて90分以上を要する船旅と比べれば、圧倒的な時間短縮と快適性を誇る。
この輸送を可能にしているのが、トンネル内部の三連構造だ。地下には外径約8.8m(内径7.6m)の単線用「主トンネル」が北行き・南行きで2本平行して走り、その中央に外径約5.8m(内径4.8m)の「サービス・トンネル」が貫通している。主トンネルとサービス・トンネルは約375メートル間隔で連絡横坑によって結ばれており、換気、保守点検、そして万が一の緊急避難ルートとしての役割を担っている。自動車の排気ガスを充満させず、かつ安全に大量の車両を陸送するための最適解が、この「列車に車を載せる」ピギーバック方式だったわけだ。