なぜ私たちは、自分を粗末に扱う相手に対してさえ気を遣い続けてしまうのでしょうか。相手に気を使いすぎる心理と原因の根底には、「他者の課題」と「自分の課題」の混同、すなわち心理的バウンダリー(自他境界)の脆弱さが存在します。
臨床心理の現場に持ち込まれる相談手記を紐解くと、共通して次のような自己否定のサイクルが観察されます。
「彼が不機嫌なのは、私が気が利かないからだ」「私がもっと頑張れば、穏やかな人に戻ってくれるはず」――このように相手の機嫌や感情の責任を一身に背負い込む思考パターンは、知らず知らずのうちに相手を傲慢に仕立て上げる燃料となってしまいます。
この歪みが極端に悪化したものが、モラハラ支配関係の心理です。支配者は往々にして、相手を公然と貶める一方で、時に激しい優しさを見せる「緊張と緩和のサイクル」を巧妙に使い分けます。これにより被支配者は認知の歪みを引き起こし、「怒らせた自分が悪い」「この人には私しかいない」という強固なマインドコントロール状態に陥るのです。
ここで着目すべきは、対等になれない人の共通点です。常に上下関係の下位に甘んじてしまう人は、自己評価を「他者への貢献度」でしか測れない傾向があります。自分の感情を押し殺して相手の欲求を満たすことでしか安心感を得られないため、無意識に支配欲の強いパートナーを引き寄せてしまう悪循環が生じています。