歌舞伎の興行を一身に担う松竹株式会社にとっても、猿之助という不世出の天才の離脱は計り知れない損失であった。伝統芸能の継承と現代的なコンプライアンス遵守という二律背反の課題の狭間で、興行元としての判断は極めて複雑だ。世論の反発を警戒する声が強い一方で、劇場の客席を埋める圧倒的な興行能力を持つ彼の存在を惜しむ声も根強い。
関係者の間では、表立った劇場復帰ではなく、まずは「裏方」としての参画や、指導者としての復帰計画が密かに囁かれている。演出家としての手腕は歌舞伎界屈指であり、若手への指導や舞台演出という形であれば、段階的な復帰が可能ではないかという議論だ。伝統を護りつつもビジネスとしての成功を収めなければならない松竹にとって、彼の才能をこのまま埋もれさせるべきか否かという問いは、今なお大きな課題であり続けている。