中村勘九郎の役者としてのキャリアを語る上で欠かせないのが、2019年に主演を務めたNHK大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』です。日本マラソンの父・金栗四三役を演じるにあたり、徹底的な走り込みと過酷な肉体改造を敢行。「とつけむにゃあ!」と叫びながら泥臭く前へ進む姿は、視聴者の心を揺さぶりました。
この大河ドラマで発揮された「一切の妥協を排して役に憑依する情熱」は、まさに歌舞伎の舞台で培われたものです。1986年の初お目見得(『盛綱陣屋』の小四郎)、1987年の二代目中村勘太郎襲名、そして2012年の六代目中村勘九郎襲名に至るまで、彼は常に父の背中を追い、古典の様式美を自らの血肉としてきました。
劇評家や演劇ライターの間でも、勘九郎の演技は「肚(はら)が座った重厚さ」と「現代的なスピード感」が奇跡的なバランスで同居していると評されています。特に『連獅子』で見せる親獅子の厳格さと慈愛、あるいは『髪結新三』などの世話物で見せる江戸っ子の歯切れ良い粋な台詞回しは、十八代目勘三郎のDNAを確かに受け継ぎつつ、彼独自の洗練された境地へと昇華されています。