童謡「アイスクリームの歌」のハイライトといえば、「おとぎ話の王子様でさえ昔は食べられなかった」というフレーズから、「だから僕は王子様になんかなりたくない」と子どもが胸を張る痛快な展開です。この詩的レトリックの背後には、食文化史と科学技術史に裏打ちされた明確な歴史的事実が存在しています。
古代ローマの英雄や中世ヨーロッパの君主たちが、冬の雪山から氷や雪を運ばせて果汁や糖分を混ぜた「氷菓の原型(ソルベやグラニテ)」を楽しんでいた記録は残されています。古代ローマ皇帝ネロの「ドルチェ」や、中国・唐代の貴族が口にした氷菓がその代表例です。しかし、これらはあくまで現代でいうシャーベットやかき氷に近いものでした。
牛乳や生クリームなどの乳素材をベースにし、空気を含ませながら氷点下で撹拌して凍らせる「なめらかなアイスクリーム」を作るには、人工的な冷凍技術と連続式フリーザーの存在が不可欠でした。1846年にアメリカのナンシー・ジョンソンが手回し式フリーザーを発明し、19世紀末の産業革命を経て冷却機が実用化されるまで、現代のアイスクリームは物理的に製造不可能だったのです。
つまり、おとぎ話の舞台となる中世や近世の宮殿には、どんなに莫大な金銀財宝を積んでも、現代の幼児がスプーンで口に運んでいるようなクリーミーで冷たいアイスクリームは存在しませんでした。作詞者のさとうよしみ氏は、この歴史的なギャップを見事にすくい上げ、「富や身分よりも、今ここでアイスを食べられる自分の方がずっと幸せだ」という子どもの純粋な優越感と日常の歓びへ見事に転換させたのです。