梅雨時、民家のブロック塀や高架下のコンクリート壁に何匹ものカタツムリがへばりついているのを見かけた経験がある人は多いはずです。都市伝説ではなく、カタツムリがコンクリートを食べる理由には、彼らの生命維持に関わる切実な生理的要求が存在します。
カタツムリの背中にある殻は、ヤドカリのような「借り物の家」ではなく、外套膜(がいとうまく)から分泌される成分で作られた自分自身の体の一部です。その主成分は炭酸カルシウム。カタツムリは成長とともに殻を自ら大きく修復・強化し続けなければならず、常に大量のカルシウム分を体内に取り込む必要があります。
自然界が豊かな森林であれば、石灰岩や動物の骨、落ち葉に含まれるミネラルを摂取できますが、コンクリートで覆われた近代的な住宅街では調達先が限られます。そこでカタツムリは、セメントに含まれる炭酸カルシウムを補給するため、強靭な歯舌を使ってコンクリートの表面を削り取って食べているのです。
昆虫研究者や生物系博物館の学芸員による飼育実験では、卵の殻やチョーク、石膏などを与えると、周囲に響くほど微小な「シャリシャリ」「チリチリ」という咀嚼音を立てて削り食べる様子が記録されています。コンクリートを物理的に削りとるほどの摩擦力を生み出す微小器官こそが、カタツムリの歯舌に秘められた真の実力です。