「2日目のカレーはおいしい」という定説は、具材からアミノ酸や糖類がルーに溶け出し、味がまろやかになる現象を指しています。しかし衛生微生物学の視点から見ると、この2日目のカレーの真相は極めてリスキーな状態を意味しています。その主因が「ウェルシュ菌(Clostridium perfringens)」です。
ウェルシュ菌はヒトや動物の腸管、土壌などに広く生息している細菌で、肉類や根菜類を多く使うカレーには最初から微量に付着していることが一般的です。この菌の最も恐ろしい特徴は、酸素を嫌う「嫌気性菌」であること、そして環境が悪化すると硬い殻のような「芽胞(がほう)」を形成して休眠状態に入ることです。
多くの人が「グツグツ煮込めば菌は全滅する」と誤解しています。しかし、ウェルシュ菌が加熱で死なない真相はここにあります。芽胞を形成したウェルシュ菌は、100℃で1〜4時間の煮沸加熱にも耐える桁外れの耐熱性を誇ります。調理の加熱によって他の雑菌が死滅する一方で、生き残ったウェルシュ菌の芽胞は、カレーが冷めていく40℃〜50℃前後の段階で「ライバルがいなくなった環境」で一斉に発芽を始めます。
さらに、カレーは粘度が高いため底部の空気が抜けやすく、酸素がない状態を好むウェルシュ菌にとって理想的な増殖空間になります。大鍋のまま常温でゆっくり冷ます行為は、ウェルシュ菌を純粋培養しているのと同義です。ウェルシュ菌食中毒の危険性と予防を理解する上では、「加熱しても死なない菌が存在する」という前提を持つことが第一歩となります。