攻撃性の発現において、単極性うつ病(一般的なうつ病)以外の疾患や薬理作用が見落とされているケースは珍しくありません。精神医療の現場で特に警戒されるのが、以下の4つの病態です。
筆頭に挙げられるのが、双極性障害(双極II型)の「躁転(そうてん)」です。うつ病と診断されて治療を受けていた患者が、実際には双極性障害であり、病相が軽躁状態へと移行する現象を指します。軽躁状態に入ると、本人は「調子が良くなった」「気力が湧いてきた」と万能感を抱きますが、周囲から見ると異常におしゃべりになり、他者の意見に耳を貸さず、自分の思い通りにならないと尊大な態度で激昂・暴言を吐くようになります。日本うつ病学会の各種ガイドラインでも、初発のうつ病患者の中に少なからぬ割合で双極性障害が潜在しているリスクが指摘されています。
次に注意を要するのが、抗うつ薬(SSRIやSNRIなど)の服用初期や増量期に生じるアクチベーションシンドローム(賦活症候群)です。薬が中枢神経系を刺激しすぎることで、激しい焦燥感、不安、不眠とともに衝動性や敵意が急激に高まります。普段は物静かな患者が、処方変更から数日から2週間ほどの間に突如として怒鳴り散らしたり、暴力を振るったりする場合、この医原性の副作用を疑う必要があります。
さらに、近年増加している非定型うつ病では、気分の反応性(楽しいことがあると一時的に元気を取り戻す)とともに、拒絶過敏性や他罰的な傾向が顕著に現れます。自分の不遇を他人のせいにし、「周りが自分を理解しない」と被害妄想的に怒りを募らせるのが特徴です。また、高齢者の場合は「老人性うつ」だけでなく、脳の器質的病変を伴う前頭側頭型認知症やアルツハイマー型認知症の初期症状(BPSD:認知症の行動・心理症状)によって脱抑制(理性的な歯止めが利かなくなること)が起き、攻撃的になっている可能性を慎重に鑑別しなければなりません。