ヒグマが海を渡ったというニュースは、多くの人々に「熊が海を泳げるのか」という驚きを与えました。しかし野生動物学や北海道立総合研究機構(道総研)の知見によると、ヒグマは極めて優れた遊泳能力を持つ哺乳類です。体脂肪による浮力と強靭な筋力を活かし、数キロメートル程度の海峡であれば日常的に泳いで移動することが知られています。
2018年の上陸個体に関する調査・分析では、以下の事実が明らかになっています。
- 渡海ルートの推測:北海道本土のサロベツ原野・稚内沿岸から利尻島東岸までの最短距離は約19〜20km。強い潮流がある日本海を泳ぎ切ったとみられます。
- 渡海の動機:春先の発情期におけるメスを求めた放浪、あるいは新たな縄張りを求める若潮オスの分散行動が主因と考えられています。
- 最終的な結末:2018年の個体は約数ヶ月にわたって島の山林や海岸部で足跡や糞などの痕跡が確認されましたが、人身被害や深刻な農水産被害を出すことなく、同年秋以降に痕跡が途絶えました。餓死・滑落、あるいは本土へ再渡海した可能性を含め、最終的に島内での生存は確認されなくなりました。
利尻島では明治時代の1912年(明治45年)にも泳いで上陸したヒグマが駆除された公式記録が残っており、「100年に一度規模で海を渡る個体が出現する」という極めて稀有な生態事象として記録されています。