ニホンマムシの恐ろしさは、その一咬みで体内に注入される複雑な毒成分にある。毒性学 (Toxinology) の最新知見によれば、マムシ毒は単一の作用にとどまらない複雑な「生化学カクテル」だ。主成分である出血毒(プロテアーゼやメタロプロテアーゼ)は、微細な毛細血管と組織細胞を速やかに破壊し、猛烈な激痛と急激な腫れを引き起こす。
さらに、血液凝固系を強力に撹乱することで体内での持続的な出血を進行させ、進行すると急性腎不全や播種性血管内凝固症候群(DIC)という致命的な病態を誘発する。近年の研究では、微量ながら神経毒性成分や心臓毒性ペプチドが含まれていることも判明した。咬まれた直後は小さな傷痕に見えても、毒素は刻一刻と全身の血管を巡り、赤血球を破壊しながら臓器の機能を奪っていく。小型の蛇だからと油断することは、まさに命取りとなるのだ。