映画『海街diary』のキャスティングにおいて、最大の難関とされたのが物語の核となる四女・浅野すずのキャスティングでした。綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆というトップ女優3名の姉妹役が決定していた中で、彼女たちの妹として対等にスクリーンへ存在できる少女を見つけ出すため、数百名規模のオーディションが極秘裏に開催されました。
制作関係者の証言や当時の取材記録によると、広瀬すずがオーディション会場の扉を開けて入室した瞬間、部屋の空気が一変したと語られています。是枝裕和監督は自著や特別対談の中で、「彼女が入ってきた瞬間に、部屋の湿度が変わるような感覚があった」と振り返っています。整った容姿以上に監督の目を奪ったのは、快活な笑顔の奥にふと宿る、言葉にできない寂寥感と芯の強さでした。
原作における浅野すずは、「自分の存在そのものが、誰かを深く傷つけているのではないか」という原罪的な孤独を抱える極めて複雑な少女です。広瀬すず自身が見せた無防備な透明感と、無意識に背負っているような陰影のコントラストが、是枝監督の求めるキャラクター像と完全に合致しました。形式的な台詞テストを待つまでもなく、監督の脳裏には彼女が鎌倉の海辺を走る姿が明確に浮かんでいたと伝えられています。