ネット上の一部では「クルーゼは薬物依存による誇大妄想狂であり、世界を巻き込んで自死したかっただけのテロリスト」と短絡的に片付けられるケースが散見されます。しかし、劇中の描写や監督・脚本家による公式解説を精査すると、この見解は一面的な誤解であることが分かります。
クルーゼの真の恐ろしさは、彼が「狂気を装いながら、極めて冷静に世界を観察し、誘導していた」点にあります。彼はコーディネイターの急進派組織ザフトの隊長でありながら、ナチュラル側の過激派組織ブルーコスモスの盟主ムルタ・アズラエルにニュートロンジャマーキャンセラー(核使用を可能にする技術データ)のディスクを意図的に横流ししました。両軍に究極の虐殺兵器を持たせることで、双方が自発的に全滅の道を選ぶよう、精緻極まるチェス盤を組み立てていたのです。
つまり、彼は狂気に身を任せて暴れたのではなく、「人類が自らの欲望によって自滅するプロセス」をただ具現化してみせた執行人に過ぎませんでした。「知らぬさ! 所詮人は己の知ることしか知らぬ!」という言葉の通り、人間が他者を真に理解できず、自らの正義に盲目であることを見抜いていたクルーゼの知性は、劇中誰よりも冷徹に澄み渡っていました。