14年間にわたり視聴者の心を掴んで離さなかったのが、NHK BSの名物番組『にっぽん縦断 こころ旅』だ。相棒の自転車「チャリオ」に跨がり、視聴者から届いた「こころの風景」を訪ねる旅。そこには台本通りの予定調和など一切存在しなかった。
坂道を前にすれば「もう嫌だ、帰りたい」と平然とぼやき、道端の名もなき草花や虫を見つけては立ち止まる。地元のお年寄りや子供たちと交わす言葉には、芸能人特有の上から目線も過剰な愛想笑いもない。ディレクターが指示を出さずとも、彼がただそこに佇み、風に吹かれるだけで極上のドキュメンタリーが完成した。スタッフが明かす舞台裏でも、彼はロケ先で出会った一般人に対してカメラが回っていない場所でも全く同じ温度感で接していたという。飾らない素顔こそが、老若男女の心を捉えた最大の理由だった。