タバコが肺に及ぼす真の恐怖は、色の変化といった外見的な問題にとどまりません。本質的な脅威は、酸素を取り込み二酸化炭素を排出する「肺胞」という極小の袋が物理的に破壊され、呼吸機能そのものが失われていく点にあります。この病態がCOPD(慢性閉塞性肺疾患)であり、かつて肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれていた疾患の総称です。
喫煙年数と1日の喫煙本数を掛け合わせた指標であるブリンクマン指数(1日の本数×喫煙年数)が400を超えると肺疾患のリスクが跳ね上がり、700以上で重症化の危険域に突入します。初期段階では軽い咳や痰、階段を上る際の息切れといった些細な変化しか自覚されません。この段階を多くの喫煙者は「加齢のせい」と見過ごしがちですが、肺の内部では取り返しのつかない組織破壊が進行しています。
代表的な肺気腫症状が現れる頃には、肺胞の壁が壊れて無数の小部屋が融合し、まるで弾力を失った古いスポンジのような状態に陥ります。最新の高分解能喫煙者肺CT画像を精査すると、正常な組織の中に「低吸収域(LAA)」と呼ばれる無数の黒い穴が観察されます。これは肺胞が完全に破綻して空気が溜まった空洞であり、一度破壊された肺胞壁は現代医学をもってしても二度と再生しません。吸った空気を自力で吐き出せなくなる窒息に近い苦痛が、静かに、そして確実に忍び寄るのです。