「えんがわは何の魚なのか」という問いに対する最も端的な回答は、「食べる場所や価格帯によって魚の種類が完全に異なる」ということです。高級寿司店が扱う伝統的なえんがわは国産の天然または養殖の「ヒラメ(平目)」ですが、一皿100円〜300円前後で提供される回転寿司チェーンやスーパーの総菜で並ぶえんがわの正体は、大西洋やベーリング海などの極寒の深海で漁獲される「カラスガレイ」や「オヒョウ」といった大型のカレイ類です。
なぜこのような使い分けが定着したのか。その背景には、圧倒的な「個体の大きさと歩留まり(可食部割合)の差」があります。ヒラメは体長40〜60cm程度、重さ1〜2kgが主流であり、後述するように1匹から取れるえんがわの量はごくわずかです。ヒラメの原価だけで1貫数百円から千円を超えるケースも珍しくありません。これに対し、回転寿司で主力を担うカラスガレイは体長1m前後、オヒョウに至っては体長2〜3m、重量200kgを超える巨体へと成長します。1匹から大量のえんがわが確保できるため、全国チェーンでの安定供給とリーズナブルな価格設定が実現しました。
消費者庁の「食品表示基準」においても、原材料名に「カラスガレイ」「オヒョウ」と明記することが義務付けられており、決して違法な偽装表示ではありません。低価格帯の外食産業が長年培ってきたグローバルな調達網と急速冷凍技術の結晶が、現在の回転寿司におけるえんがわ文化を支えています。