手足口病が完治したはずの数週間後から2ヶ月ほど経って、手の爪や足の爪が根元から浮き、白く浮き上がって剥がれ落ちる現象は、医学界において爪甲脱落症(そうこうだつらくしょう、onychomadesis)として広く認知されています。病気が治ってすっかり安心しきった時期に爪がポロポロと脱落し始めるため、手足口病との関連性に気づかず、重い栄養障害や未知の病を疑ってしまう方も少なくありません。
この異変を引き起こす最大の要因は、爪を作り出す組織である「爪母(そうぼ)」に生じる一時的な機能不全にあります。爪は指の根元にある爪母基で細胞分裂が繰り返されることで日々前へと押し出されていますが、ウイルス感染による強い炎症や高熱、指先に生じた水疱の波及によって、この製造ラインが一時的に完全停止してしまいます。その後、体調が回復すると爪母の機能も再開し、新しい爪が再び作られ始めます。しかし、休止していた期間に生じた「空白」が深い横溝(ボー線条)となり、新しく伸びてきた爪が古い爪を下から押し上げるため、古い爪がペリペリと浮いて剥がれ落ちるというわけです。
かつての手足口病(主にコクサッキーウイルスA16型やエンテロウイルス71型が主流だった時代)では、爪甲脱落症の報告は比較的稀でした。しかし、国立感染症研究所や日本小児皮膚科学会の調査によると、コクサッキーウイルスA6(CA6)と呼ばれる病原体が流行の主流となって以降、治癒後の爪甲脱落症を合併する患者が急増しました。CA6型は従来株に比べて水疱が大きく、肘や膝、臀部など広範囲に発疹が広がる特徴があり、指先の爪母周辺に強い炎症を残しやすいことが解明されています。