「座薬とは一体どんな薬?飲み薬と何が違うの?」という疑問の答えは、人間の解剖学的な血管走行と薬物動態学にあります。座薬とは、有効成分を油脂性基剤(カカオ脂やハードファットなど)に均一に練り込み、直腸内に挿入して体温で融解・吸収させる外用固形製剤のことです。
臨床現場において医師が座薬を使う理由は、主に3つの圧倒的なアドバンテージが存在するからです。
第1に「胃腸障害・嘔吐時への確実な投与」です。胃腸炎などで激しく嘔吐している患者にシロップや錠剤を飲ませても、直後に吐き戻してしまえば薬効は期待できず、どの程度吸収されたかの計算も困難になります。直腸からの投与であれば、上部消化管の状態に一切左右されることなく確実に薬効成分を体内に届けることが可能です。
第2に「肝臓の初回通過効果(ファーストパス・エフェクト)の回避」が挙げられます。口から飲んだ薬は胃や小腸から吸収された後、門脈という血管を通ってまず肝臓に運ばれます。肝臓は解毒器官であるため、薬の成分の一部を分解・代謝してしまいます。一方、直腸の下部から吸収された成分は、中直腸静脈や下直腸静脈を通じて直接「下大静脈」へ流入し、心臓を経由して全身へと循環します。肝臓で分解される割合が低いため、飲み薬に比べて少ない成分量でも迅速かつ高効率に効果を発揮できるのです。
第3に「胃粘膜への直接刺激の低減」です。解熱鎮痛薬の多くは胃粘膜を荒らす作用を持ちますが、直腸投与であれば胃壁を直接刺激することがなく、消化管への急性ストレスを最小限に抑えられます。