「かまきりりゅうじ」とは、実在する人物ではなく、詩人・童話作家の工藤直子(くどう なおこ)氏が生み出した詩集『のはらうた』シリーズに登場するキャラクターの一人です。『のはらうた』の世界では、野原に暮らす虫や動物、植物や風までもが「詩人」として自らの思いを詩に紡いでおり、工藤氏はあくまで彼らの言葉を書き留める「代理人(代筆者)」という立場をとっています。
その中でも屈指の存在感を放ち、光村図書出版をはじめとする小学校2年生の国語教科書に半世紀近くにわたり掲載されているのが、かまきりりゅうじ作の『おれはかまきり』です。まずはその詩の全文を振り返ってみましょう。
『おれはかまきり』 かまきりりゅうじ
おう なつだぜ
おれは げんきだぜ
あまり ちかよるな
おれの こころも かまも
どきどきするほど
ひかるぜ
おう あつだぜ
おれは がんばるぜ
もえる ひをあびて
かまを ふりかざす すがた
わくわくするほど
かっこいいぜ
このわずか12行の詩には、真夏の野原の情景描写が見事に凝縮されています。照りつける太陽の熱気、緑の葉の上で威風堂々と鎌を構えるカマキリの姿、そして光を反射してメタリックに輝く前脚の鋭利さ。「おう なつだぜ」「おれは げんきだぜ」という口語体の呼びかけは、読者の聴覚を刺激し、目の前に小さな緑色のハンターが仁王立ちしているかのような錯覚を与えます。
特筆すべきは、「あまり ちかよるな」というフレーズの奥にある心理描写です。単なる威嚇ではなく、「おれの こころも かまも どきどきするほど ひかるぜ」と続きます。強気なポーズの裏にある命の高鳴りや、自分自身でも制御しきれない生命エネルギーの爆発が、瑞々しいリズムに乗せて描き出されています。