では、不法な取引に巻き込まれた場合、いかなる場合でもお金は1円も戻らないのでしょうか。ここで極めて重要な役割を果たすのが民法708条但書(ただしがき)です。
条文には「ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない」と明記されています。つまり、給付を受け取った側(受益者)だけが悪質であり、給付した側には不法性がない場合には、例外として返還請求が認められます。
さらに裁判実務では、この条文を柔軟に解釈した「不法性比較論」が広く採用されています。双方に何らかの落ち度や不法性があったとしても、両者の不法性の度合いを比較し、受領者側の悪質性・違法性が給付者側に比べて著しく極めて強い場合には、信義則上、返還請求を認めるという法理です。
具体的には、以下のようなケースで例外的な返還が認められる傾向があります。
① 詐欺や強迫によって違法な給付を余儀なくされた場合
相手方の巧妙な嘘や暴力的な脅迫により恐怖に陥って金銭を差し出した場合、被害者側の不法性は極めて微弱であり、受益者側の不法性が圧倒的であるため返還請求が可能です。
② 組織的な悪質商法・カルト的霊感商法・違法高金利ヤミ金
著しく暴利な違法ヤミ金融からの借入れに対する元利均等返済や、消費者の無知・困窮に乗じた悪質マルチ商法において、最高裁はヤミ金業者の不法性が著しく大きいとして、被害者からの元本・利息相当額の全額返還請求を認める判決(最高裁平成20年6月10日判決等)を下しています。
③ 目的が達成される前に自発的に思いとどまり離脱した場合
犯罪の実行を依頼して前受金を渡したものの、実際の犯行が行われる前に自発的に依頼を撤回して中止させたような場合、違法な結果の発生を未然に防いだ点を評価して返還を認める余地が議論されています。