京都のエスニックシーンを語る際、ネット上でまことしやかに囁かれるいくつかの誤解が存在します。その最たるものが、「本格的なベトナム料理=激辛で香草だらけ」というイメージと、「ミシュランガイドの掲載状況」に関する情報です。
まず前提として、ベトナム料理はタイ料理と異なり、唐辛子を大量に使った攻撃的な辛さは基本的にありません。フランス植民地時代の影響を受けた洗練された調理技法と、中国から伝わった医食同源の思想が融合しており、本来は非常に穏やかで素材の持ち味を生かした料理です。ネット上で「辛すぎて食べられなかった」という口コミを見かけることがありますが、それは添えられた生の生唐辛子(プリッキーヌ)をスープに沈めすぎたか、卓上のチリソースを過剰に投入してしまったケースがほとんどです。辛さは自分自身で調整できるのがベトナム流の美徳です。
次に、ベトナム料理京都ミシュラン掲載店というキーワードで検索するユーザーが多い点ですが、現時点で京都・大阪版のミシュランガイドにおいて、ベトナム料理単体で星を獲得した店舗は極めて稀であり、ビブグルマンやセレクテッドレストランの枠組みで京都アジア料理エスニック名店として評価されるケースが主流です。「ミシュランの星がないから名店がない」と判断するのは完全な誤謬(ごびゅう)であり、実力派の料理人たちは形式的な評価基準にとらわれず、現地の家庭の味や伝統のスープ作りに誇りを持って向き合っています。
「日本人向けアレンジ」に対する批判も短絡的に捉えるべきではありません。上質な名店が行っているのは、本場の素材をケチることではなく、現地特有の化学調味料(味の素など)の過度な使用を控え、豚骨や鶏、野菜の自然な出汁でコクを補うという「味の純化」です。これは京都という土地の食文化が育んだ、極めて必然的で知的なアプローチと言えます。