読者が最も知りたい「何日まで様子を見ていいのか」という問いに対し、小動物獣医学の現場が下す回答は明快です。健康な成猫であっても「24時間の完全絶食(水もフードも口にしない)」、あるいは「48時間以上にわたる食事摂取量の大幅な激減(通常の半分以下)」が確認された時点で、観察期間は終了とし、直ちに医療介入へ移行しなければなりません。
なぜ猫の絶食はこれほどまでに危険なのか。その主因が、猫特有の急性肝疾患である「肝リピドーシス(脂肪肝)」です。完全肉食動物である猫の肝臓は、タンパク質をエネルギー源として代謝し続ける特殊な構造を持っています。食事が途絶えると、生体は危機を回避しようと全身の皮下脂肪を急激に分解し、エネルギー源として肝臓へ送り込みます。しかし、猫の肝臓は大量の脂肪を処理する能力が構造的に低いため、分解しきれなかった中性脂肪が肝細胞内に急速に蓄積。結果として肝機能が短期間で破綻し、黄疸、極度の倦怠感、肝性脳症を引き起こし、治療が遅れれば致死率は30〜50%以上に達します。
特に危険なのが、体重過多(肥満気味)の猫です。蓄えられた脂肪が多い分、肝臓への脂肪流入量が爆発的となり、絶食後わずか24〜36時間で肝障害の指標であるALTやGTPが急上昇するケースが臨床現場で頻発しています。東京都内の救急動物病院に勤務する獣医師は、現場の惨状を次のように証言します。「『ちょっと食欲がないだけだと思い、3日様子を見ていた』と来院された時には、すでに白目や歯茎が真っ黄色に染まり、集中治療室での強制給餌チューブ設置を余儀なくされる例が後を絶ちません」。
さらに年齢によってタイムリミットは極端に短縮されます。生後半年未満の成長期にある子猫の場合、肝臓内のグリコーゲン蓄積量が極めて乏しいため、絶食がわずか8〜12時間続くだけで重篤な「低血糖症」を発症します。痙攣発作、体温低下、意識混濁を招き、処置が数時間遅れただけで命を落とす危険があるため、子猫の「半日食べない」事態は即日救急外来レベルの事態と認識する必要があります。