富士山に関してインターネット上で広く信じられている俗説の中には、明らかな事実誤認が数多く存在します。その代表例を検証します。
第一の誤解は、「富士山全体が日本国の象徴なのだから、すべて国有地である」という思い込みです。前述の通り、八合目以上の大部分は富士山本宮浅間大社の私有地であり、山麓部分にも広大な私有林や自治体の公有地が入り組んでいます。国が直接管理しているのは一部の保安林や国有林に過ぎません。
第二の誤解は、「山頂の県境を決めると固定資産税などの税収が巨額に動くため、自治体が奪い合っている」という言説です。これも実態とは異なります。宗教法人の境内地には原則として固定資産税が非課税となるため、仮に山頂の帰属がどちらかの自治体に決定したとしても、自治体に入る固定資産税収入は微々たるものに過ぎません。県境が未定のままである理由は金銭的な利害ではなく、歴史的プライドと、境界を無理に画定させることで生じる感情的な対立を避けるための配慮です。
【プロの結論】境界線をあえて引かない「戦略的曖昧さ」と登山ルートの賢い選び方
人間関係や組織論において、白黒をつけずにグレーのまま共存を図る手法を「戦略的曖昧さ」と呼びます。富士山の山頂が「境界未定」のまま維持されている現状は、まさに日本的な調停の知恵と言えます。どちらか一方の県に決定してしまえば、必ずもう一方の県民感情にしこりが残ります。「どちらのものでもない、神域としての共有財産」としておくことが、両県が共同で世界遺産を守り続けるための最善の解決策として機能しているのです。
これから富士山を訪れる読者に向けて、目的別のルート選択基準を整理します。
▼山梨県側(吉田ルート)をおすすめできる人:
- 初めて富士山に登る初心者や、山小屋の設備(トイレ・救護所)の充実度を最優先したい人
- 都心から高速バス等を利用し、公共交通機関でスムーズにアクセスしたい人
- 河口湖などの観光地とセットで、絵画のような左右対称の富士山を鑑賞したい人
▼静岡県側(富士宮・御殿場・須走ルート)をおすすめできる人:
- 山頂の最高地点「剣ヶ峰」や富士山本宮浅間大社奥宮へ最短で到達したい人
- 過密な混雑を避け、本来の自然の静けさや火山の荒々しい地形を体感したい中上級者
- 駿河湾や太平洋を望むダイナミックな海景色のパノラマを楽しみたい人