新潮社から刊行され大きな話題を呼んだ『精神科医は病んでいる』は、治療者自身の精神的脆弱性やナルシシズムを白日のもとに晒した衝撃作だった。精神科医とは決して高みから患者を見下ろす賢者ではなく、自らもまた病理の淵で危ういバランスをとっている存在に過ぎないという告白は、読者に強い戦慄と深い共感をもたらした。
一方、『無意味なものと不気味なもの』では、用途不明のガラクタや異様な間取り、悪夢のようなイメージに対するフェティッシュな偏愛が徹底的に追究されている。役に立つことばかりを強要する功利主義的な社会の片隅で、何の役にも立たない「不気味なもの」にこそ人間の真実が宿る。その逆説的な美学は、閉塞した現代を生きる私たちの呼吸を、皮肉にも少しだけ楽にしてくれる。