デビュー直後、日本クラウンからの楽曲リリースによって藤圭子はまたたく間に歌謡界の階段を駆け上った。ファーストアルバムが連続首位記録を樹立するという前代未聞の快挙を成し遂げた陰には、常に母・澄子の厳しい眼差しと教えがあった。レコード会社関係者の間では、娘の歌唱チェックを行う澄子の聴覚の鋭さが語り草になっている。
さらにはNHK『紅白歌合戦』をはじめとする大舞台への出演時も、澄子はバックステージから娘の歌声の一音一音に神経を研ぎ澄ませていたという。「お前の声にはまだ甘さがある」「客の心の底まで響かせろ」——華やかなライトの光線が降り注ぐ歌番組の裏で、澄子は娘に対して一切の妥協を許さない浪曲師としてのプロフェッショナリズムを貫き通した。