作業机で頭を抱え、鉛筆を握りながら「あー、めんどくさいぞ」「めんどくさいっていう自分の気持ちとの戦いなんだよ」とぼやく宮崎駿の姿は、視聴者に強烈なインパクトを与えました。ネット上では時折「世界的巨匠でも私たちと同じように面倒くさがる」と親近感を持たれがちですが、その実態は正反対の文脈を持っています。
当時の特番インタビューや制作現場の手記において、宮崎監督は「世の中の大事なことって、たいがいめんどくさいんだよ」「めんどくさいのが嫌なら、やめればいい。でも、めんどくさいことの中にしか面白いものはない」と言い切っています。つまり彼にとっての「めんどくさい」は、逃避の言い訳ではなく、「本質的な価値へ手を伸ばしている確信」のサインにほかなりません。
デジタルツールによる作業の自動化やAIによる効率化が極限まで進んだ現代において、宮崎駿のアニメーション制作哲学は異彩を放ちます。風の揺らめき、スカートの膨らみ、群衆の一人ひとりの生活感など、観客が一瞬で見過ごすような細部に数千枚の手描き動画を費やす執念。それは「安易な近道を捨て、もっとも面倒な工程を踏んだものだけが、観客の無意識に届く生命力を宿す」という冷徹なリアリズムに基づいています。