地上はまだ夜の闇に沈んでいるにもかかわらず、なぜ山が赤く染まるのか理由を物理学的に説明すると、日光の「レイリー散乱」と「地球の丸み(球体形状)」という2つの要素が交差する点にあります。
太陽光には紫から赤まであらゆる波長の可視光線が含まれています。波長の短い青い光(約400nm)は大気中の窒素や酸素分子にぶつかると四方八方に激しく散乱する性質を持ちます。昼間の空が青いのはこのためです。一方、波長の長い赤い光(約700nm)は障害物をすり抜ける直進性が極めて高い特性を持っています。
夜明け前、太陽が地平線のはるか下にあるとき、光線は大気層を極めて斜めの角度で、昼間の数十倍もの距離を突き抜けて進まなければなりません。その長い旅路の途中で、青や緑の波長は完全に散乱し尽くされ、目に見える領域から脱落します。結果として、最も散乱されにくい「赤い波長の光」だけがフィルターを通したように生き残り、地平線の彼方へと届くのです。
そして決定打となるのが標高差です。地球が球体であるため、標高0mの平野部には太陽光が届いていなくても、標高3,000m級の高山帯の頂上部には、地平線下の太陽から放たれた直線光が一足早く到達します。「谷底は真っ暗な未明のまま、独立峰や連峰の尖塔だけが長波長の赤色光を真っ先に受光する」という幾何学的な位置関係こそが、神々しいモルゲンロートを生み出す物理的根拠です。