1971年、日本でシングル盤が発売されるや否や、ラジオの深夜放送や街の喫茶店を席巻した『エーゲ海の真珠』。日本における空前のブームの立役者は、レコード会社(当時の日本フォノグラム)の制作陣による鋭敏なマーケット感覚でした。
本曲の原曲のタイトルは『ペネロペ(Penélope)』。もしこの曲が原題のままカタカナ表記で発売されていたら、オリコン洋楽チャートを長期独占するほどのメガヒットには至らなかった可能性があります。当時の洋楽制作ディレクター陣の回想録や音楽業界誌の記録によると、「ギリシャ神話を題材にした原題のままでは地味で、日本の大衆にはイメージが湧きにくい」という懸念がありました。そこで、きらめく鍵盤の響きから「ギリシャの紺碧の海」と「眩しい光」を着想し、『エーゲ海の真珠』という邦題が生み出されたのです。
この命名は、当時の世相とも見事なシンクロを見せました。1970年の大阪万博を経て、日本人の海外への憧れが急速に高まっていた時代背景です。異国情緒あふれる南欧のイメージは、リスナーのロマンを激しく刺激しました。さらに、クラシックの伝統に根ざしたチェンバロ(ハープシコード)の響きと、歌謡曲にも通じる哀愁を帯びたマイナーコードのメロディラインが、日本人の情緒的琴線に深く突き刺さったのです。