なぜ東京の片隅に、遠く離れた東北や関西と響き合う言葉が眠っているのか。この謎に光を当てるのが、民俗学者・柳田國男が提唱した「方言周圏論」だ。文化の中心地である京都から同心円状に言葉が波及したとするこの理論は、関東の言語形成史を紐解く上でも極めて示唆に富んでいる。
江戸時代、全国から武士や商人が集結したことで誕生した江戸言葉は、上方語の影響を色濃く受けながら、独自の進化を遂げた。例えば、下町の職人が使う「ひ」と「し」の混同(「しちや」を「ひちや」と発音するなど)や、独特の鼻濁音の扱いは、単なる訛りではない。歴史の荒波をくぐり抜けて堆積した、生きた文化の地層そのものなのだ。