平次の代名詞といえば、悪漢の額や手首をめがけて寛永通宝を正確無比に飛ばす「投げ銭」と、十手を鮮やかに操る流麗な殺陣です。この象徴的なアクションには、大川橋蔵ならではの緻密な工夫と撮影現場の知恵が凝縮されていました。
銭を飛ばす基本のコツは、人差し指と中指で銭を挟み、親指を添えて手首のスナップを鋭く効かせる独特のフォームにあります。しかし、実際のフィルム撮影において本物の古銭をそのまま投げても、画面上では小さすぎて軌道が映りません。そこで現場では、光を反射しやすい特注の平らな金属板や銀色に加工された特製銭を使用し、照明の当て方をミリ単位で調整していました。
さらに、当時の東映京都撮影所スタッフの回想によると、大川橋蔵の動体視力とコントロールは本職のアスリート並みで、標的となる悪役俳優の手元や顔の数センチ横を狙って正確に投げ込むことができたといいます。六代目尾上菊五郎の養子として幼少期から培った歌舞伎仕込みの身体感覚が、手首の返し一つ、十手の抜き方一つに完璧な「見得」の美しさを宿らせていました。