静寂に包まれた渭伊神社の社殿に向かって左手、木々の間を縫う緩やかな山道をわずか1分ほど登ると、突如として空気が一変します。視界に飛び込んでくるのは、鬱蒼とした木立の中に累々と重なる薬師山巨石群です。木漏れ日を浴びて青苔をまとう巨石の数々は、人工物では決して生み出せない異次元の威圧感を放っています。
この天白磐座遺跡の歴史が学術的に大きく脚光を浴びたのは、1988年(昭和63年)に実施された本格的な発掘調査でした。薬師山の山頂一帯を調査した結果、巨石を神の依代(よりしろ)に見立て、周囲を取り囲んで神事を執り行っていた痕跡が鮮明に確認されたのです。人工的な社殿を建てる以前、岩や大木、山そのものに神が宿ると信じた原始神道・自然崇拝の姿が、ほぼ手つかずの状態で保存されていた事実は考古学界に大きな衝撃を与えました。
地質学的にも、この円錐形の小山にのみ局所的に巨石が密集している点は極めて特異です。井伊谷盆地を見下ろすランドマークとしての立地、さらには神宮寺川の清流が山裾を洗う環境は、古代の人々にとって「神が降臨する境界のトポス」として選ばれるべくして選ばれた必然性を物語っています。