インターネット上の掲示板や知恵袋などで散見される「小樽運河のライトアップに行ってみたが、想像より暗くてガッカリした」という声。このネガティブな感想が生じる背景には、照明設計の意図に対する誤解と、訪問時間帯の選択ミスという2つの盲点が存在します。
第一の誤解は、「ライトアップ=大都市のメガイルミネーション」という先入観です。小樽運河の夜間景観は、1986年の運河保存・整備工事の際に当時の都市景観デザイナーや市民運動関係者が議論を重ね、「近代港湾都市の歴史的記憶とノスタルジーを損なわない光環境」として設計された経緯があります。使用されているガス灯は、マントルと呼ばれる発光体を発光させる本物のガス燃焼であり、電気のハロゲンランプやLED投光器のような暴力的な明るさはありません。
倉庫群のライトアップも、建物の肌理(テクスチャ)を際立たせるための間接的な投光にとどめられており、周囲の夜空を明るく照らし出すような設計にはなっていません。この繊細な陰影の美しさを理解せず、テーマパークのような煌びやかな光を期待して訪れると「暗すぎる」という認知のギャップに陥ることになります。
第二の盲点は、22時30分以降の消灯トラブルです。繁華街でゆっくりと海鮮丼や寿司を堪能した後、23時頃に「腹ごなしの散歩」として運河へ向かう旅行者は少なくありません。前述の通り、倉庫群の外壁照射は22時30分に終了するため、深夜に到着した観光客の目の前に広がるのは、真っ暗な水面と対岸の黒い影だけです。このタイムラグによる失望が、「ライトアップが期待外れ」という言説を生み出す最大の温床となっているのです。