「子どもの頃は平気だったのに、なぜ大人になって急にお腹を壊すのか」という疑問の答えは、消化器官の奥深く、小腸粘膜の微絨毛に存在しています。牛乳や乳製品には「ラクトース(乳糖)」と呼ばれる特有の二糖類が含まれていますが、この分子はそのままでは腸壁から吸収されません。体内に取り込むためには、小腸で乳糖を分解する消化酵素「ラクターゼ」によって、グルコースとガラクトースという単糖類に分解する必要があります。
乳児期において、母乳や育児用ミルクは唯一の生命維持源であるため、ラクターゼ酵素は腸内で極めて活発に分泌されています。しかし生物学的に見れば、離乳期を過ぎて通常の食事から栄養を摂取できるようになると、高濃度の乳糖を消化する必要性は自然と低下します。世界各国の生理学的調査によると、人類の約65〜70%、とりわけ日本人を含む東アジア人においては成人の75%以上が、遺伝的なプログラムによって年齢とともにラクターゼの分泌活性を失っていくことが判明しています。
分解されずに残った乳糖が小腸を通過して大腸へ流れ込むと、腸管内の浸透圧が急激に上昇します。すると大腸は濃度を薄めようとして血管側から腸管内へと大量の水分を引き込み、これが「浸透圧性下痢」を引き起こします。さらに、大腸に棲みつく腸内細菌が未消化の乳糖をエサにして発酵を始め、短時間で大量の水素ガス、二酸化炭素、メタンガスを発生させます。牛乳を飲んだ後に起こる「お腹がゴロゴロ鳴る」「腹部がパンパンに張って痛む」という苦痛は、まさにこの発酵プロセスが体内で急速に進行している証拠です。