回復期に入った患者から頻繁に寄せられる相談の一つに、「下痢は止まったのにお腹がキュルキュル、ゴロゴロと大きな音で鳴り続けて不安になる」という声があります。しかし、この下痢治りかけお腹鳴る理由の正体は、腸が再び働き始めたことによる「蠕動(ぜんどう)運動の再開とガス・水分の移動音」です。
急性期の間、腸管は激しい炎症と過剰な収縮によって内容物を一気に体外へ押し出していました。その後、嵐が去った腸管内には、分解しきれなかった未消化物、善玉菌と悪玉菌の戦いで発生したガス、分泌された消化液が滞留しています。麻痺状態から覚醒した腸壁が正常なリズミカル運動を取り戻そうとする過程で、内部の気体と液体が狭い腸腔を移動し、腹鳴として皮膚の外まで響くのです。つまり、腹痛を伴わないゴロゴロ音は、むしろ腸が機能再生へ向かっているポジティブな生体反応といえます。
では、なぜ多くの人がこの治りかけの段階で下痢ぶり返す原因を作ってしまうのでしょうか。その最大の引き金は、「空腹感に負けて胃腸の処理能力を超えた食事を摂ること」にあります。
ウイルスが腸上皮細胞を破壊すると、小腸の表面を覆う「微絨毛(びじゅうもう)」と呼ばれる突起が一掃されます。この微絨毛には、糖質を分解するラクターゼなどの酵素が存在しています。粘膜が剥がれ落ちた状態の腸に通常の食事、特に油分や乳製品、炭水化物を急激に投入すると、腸はそれらを分解・吸収できません。結果として、腸管内に高濃度の未消化物が残り、浸透圧によって血管から腸腔内へ水分が大量に引き戻される「浸透圧性下痢」が誘発され、激しい下痢へと逆戻りしてしまうのです。