豆腐を製造する過程で大豆から豆乳を絞った後に残る「おから」。この煮物をなぜ「卯の花」あるいは「卯の花和え」と呼ぶのか。その背景には、中世から近世の日本において育まれた言葉のタブー(忌み言葉)を美意識へと昇華させる言語文化が存在する。
「おから」という語は、もともと「絞りかす」や中身のない状態を指す「から(空・殻)」に丁寧の接頭辞「お」を付けた言葉である。しかし、商家や武家、宮中において「からっぽ」「破産(からになる)」を連想させる「から」という音は、極めて縁起が悪い不吉な言葉と忌避された。
そこで室町時代から江戸時代にかけて、宮中や大名家に仕える女官たちが使った隠語的洗練語である「女房言葉(にょうぼうことば)」によって、粋な言い換えが行われた。白くポロポロとほぐれた大豆の繊維が、初夏の山野で枝いっぱいに咲きこぼれるウツギの白い小花(卯の花)に酷似していることから、「卯の花」という雅な名称で見立てて呼ぶようになったのである。
食文化研究の視点から見ても、単なる廃棄副産物になりがちな食材に対し、季節の風物詩である美しい花の名を冠することで、日常の食卓を寿ぐ祝祭性を持たせる日本独特の精神性が宿っている。現代でも料亭や割烹で「おから煮」ではなく「卯の花」の献立名が選ばれ続けるのは、この奥ゆかしい命名の伝統が生きている証左である。