縫工筋が持つ運動学的な最大の特徴は、股関節と膝関節の2つの関節をまたぐ「二関節筋」である点に集約されます。単一の関節のみを動かす筋肉とは異なり、2つの関節において複数の運動方向を連動させることが可能です。
股関節に対しては屈曲(太ももを持ち上げる)・外転(脚を外に開く)・外旋(つま先と膝を外側に向ける)という3つの運動を同時に誘発します。さらに膝関節に対しては屈曲(膝を曲げる)に作用し、膝が屈曲位にある状況下では下腿の内旋(すねを内側にひねる)を引き起こします。
この一連の複合動作を日常の姿勢に当てはめると、まさに「床にあぐらをかく動作」そのものになります。かつて西洋の仕立て屋(裁縫師=Tailor)が、作業台ではなく床にあぐらをかいて布を広げ、針仕事をしていた姿勢から、ラテン語で仕立て屋を意味する「sartor」に由来して「縫工筋(Sartorius muscle)」と命名されました。
医療従事者やトレーナーの間で広く浸透している縫工筋の作用の覚え方は、「あぐらの筋肉」あるいは「足の裏で反対側のすねを撫で上げる動き」です。また、サッカー選手がボールを真横からインサイドで蹴り上げるインパクトの瞬間にも、縫工筋の収縮が極めて強く働いています。