外見も分類も、この両者は全く異なる昆虫だ。日本衛生動物学会などの知見によれば、アブ(虻)はハチやバエに近い大型の昆虫で、体長は10ミリから30ミリほどに達する。羽音も「ブーン」と大きく豪快だ。対するブヨ(ブユ)は蚊の仲間に近く、体長わずか2ミリから5ミリ程度の微小な黒い小バエのような姿をしている。
決定的な差異は、その攻撃手法と吸血のタイミングにある。アブ(虻)は直射日光が照りつける日中を中心に活発に飛び回り、鋸状の鋭い口器で皮膚を直接切り裂く。切開した傷口から滲み出る血液を吸うため、噛まれた瞬間に「チクッ」とした強烈な痛みが走る。被害に即座に気づくのはこのためだ。
一方のブヨ(ブユ)は朝夕の薄暗い時間帯や湿度の高い木陰を好み、羽音もなく無音で肌に忍び寄る。皮膚を小さく噛みちぎる際、唾液に含まれる麻酔成分と凝血防止成分を同時に注入する。刺された瞬間には痛みをほとんど感じず、気づいた時には点状の出血痕が残り、数時間後から猛烈なアレルギー反応を引き起こす。皮膚科学・害虫防除の専門領域においても、この吸血機序の違いが初期対応の明暗を分けるとされている。