重厚な楼門をくぐり抜けた瞬間、誰もが思わず足を止め、屋根を見上げます。そこにあるのは、漆黒の流麗な屋根の上に自生するかのように青々と茂る本物の木々や草花。世界的な建築家・藤本壮介氏が率いる設計チームがデザインを手掛けた太宰府天満宮の仮殿です。伝統的な神社建築の様式美を踏襲しながらも、屋根に森を戴くこの意匠は、国内外のメディアや建築界、そして何より境内に足を運ぶ何百万人もの参拝者の心を激しく揺さぶり続けています。
なぜ、これほどまでに斬新な仮殿が突如として現れたのでしょうか。その真相の核にあるのが、太宰府天満宮本殿改修の理由です。現在の御本殿は、安土桃山時代の天正19年(1591年)に筑前国主・小早川隆景によって再建されたもので、国の重要文化財に指定されています。この国宝級の建造物を本格的に解体・修復するのは、明治35年(1902年)以来、実に124年ぶりの歴史的事業なのです。
宮庁の公式発表資料によると、来る2027年(令和9年)に菅原道真公の没後1125年という大きな節目である「式年大祭」が斎行されます。天神信仰において25年ごとに巡り来る式年大祭は、最も神聖で重要とされる御神事です。過酷な風雨に耐えてきた檜皮葺(ひわだぶき)の屋根の葺き替えや、経年劣化が進んだ漆塗り・彩色部の保存修理を約3年間の歳月をかけて完遂するため、本殿の前に御神体を一時的にお遷しする「仮殿」が建設されました。
現場で仰ぎ見る仮殿の屋根には、境内に自生する天満宮ゆかりの梅をはじめ、クスノキやヤマザクラ、シャクナゲなど、周辺の豊かな生態系を構成する多様な樹木や草花が植栽されています。藤本壮介氏は公式インタビューの場で、「道真公を慕って都から一夜にして飛んできたという『飛梅伝説』からインスピレーションを得て、周辺の鎮守の杜がそのまま社殿の上に舞い降りてきたかのような風景を創出した」と語っています。四季の移ろいとともに屋根の草木が芽吹き、花を咲かせ、紅葉し、装いを変えていく姿は、まさに生きた建築です。本殿の修復完了とともに解体される運命にあるこの奇跡の建築を直接参拝できる時間は、いよいよカウントダウンを迎えています。