魚の食の安全に関して、インターネットや一般消費者の間では根強い「認知のバイアス」が存在します。その最たるものが「養殖モノより天然モノの方が寄生虫がいなくて安全」「獲れたてで新鮮なら食中毒にならない」という誤解です。
実態は全くの逆です。かつてクドア食中毒が問題視され始めた初期には養殖ヒラメからの検出が相次ぎましたが、水産庁や関係自治体、養殖業者が一体となって徹底したクドア排除プログラムを導入しました。稚魚のPCR検査、中間宿主である環形動物(オキナワノドグロシライトゴカイ等)を排除した飼料・飼育環境の管理、出荷前のモニタリング検査が義務付けられた結果、国内の主要産地で流通する認証養殖ヒラメにおけるクドア保有率は極めて低いレベルに抑え込まれています。
一方、海洋生態系の中で自由に捕食活動を行っている「天然ヒラメ」は管理下に置くことができません。近年の水産研究機関による追跡調査でも、日本沿岸で漁獲される天然ヒラメの一部から依然として一定比率でクドア胞子が検出されています。天然モノ=高級・安全というイメージは、寄生虫衛生の観点においては完全に崩壊しているのが冷徹な現実です。
また、「新鮮だから大丈夫」という理屈も通用しません。細菌性食中毒であれば鮮度劣化による菌の増殖が引き金になりますが、クドアは魚が生きている時点で筋肉内に存在しています。むしろ「水揚げ直後の極めて新鮮な状態」であっても、クドアが基準値(筋肉1gあたり1.0×10^5個以上の胞子数)を超えて寄生していれば確実に発症します。「釣ったばかりの活き締めだから刺身で食べても平気」という釣り人の過信が、毎年多発する自家消費トラブルの温床となっています。