「軍隊の装備があればクマなど簡単に倒せる」という言説は、軍用火器のメカニズムと狩猟用装弾の性質を混同した典型的な誤解です。自衛隊の標準装備と、熟練ハンター(猟友会)が用いる猟銃には、目的と弾道特性において根本的な隔たりがあります。
自衛隊の小銃で使用される5.56×45mm NATO弾は、金属製ジャケットで覆われた「フルメタルジャケット弾」です。これは国際人道法(ハーグ陸戦条約等)の理念に基づき、弾丸が標的の体内で過度に破裂・変形しないよう設計されています。対人戦闘では十分な威力を発揮しますが、分厚い毛皮と強靭な骨格・筋肉を持つヒグマや大型ツキノワグマに撃ち込んだ場合、エネルギーを体内に伝えきれずに貫通してしまいます。
致命傷を免れたクマは興奮状態となって暴走し、周囲の人間を襲撃する危険性が跳ね上がります。さらに、貫通した弾丸や地面・アスファルトに当たった跳弾は、数百メートル先まで威力を保ったまま飛翔するため、住宅街や農地での射撃は二次被害のリスクを孕んでいます。
対照的に、狩猟で用いられるスラッグ弾やソフトポイント弾は、着弾時に弾頭がマッシュルーム状に大きく潰れ、標的の体内に全運動エネルギーを放出してショック死させる設計です。風向きを読み、足跡から個体のサイズを割り出し、一撃で急所を撃ち抜く技能は、長年の山林経験を持つ熟練ハンターにしか行えない領域です。