音楽理論の観点から「Tシャツに口紅」を分析すると、綿密に計算されたコード進行とアレンジの妙が見えてきます。基軸となっているのは、ドゥーワップの王道である循環コード(I - vi - IV - V)を巧みに発展させた進行ですが、そこにメジャーセブンス(M7)やテンションコードを散りばめることで、都会的でモダンな響きを獲得しています。
大滝詠一の十八番である「ウォール・オブ・サウンド(音の壁)」の手法が随所に散りばめられ、複数台のピアノやアコースティックギターがユニゾンで鳴り響く重厚なトラック。そこに、田代まさしや桑野信義らメンバーによるタイトで温かみのあるコーラスが重なります。
昭和歌謡の情感とシティポップの洗練、そしてフィラデルフィア・ソウルのようなグルーヴが一点で交差したトラックメイキングは、当時の音楽シーンにおいて極めて前衛的であり、現在のアナログレコードブームでも高値で取引される理由となっています。