余因子を利用して行列全体の行列式を求めるプロセスを余因子展開と呼びます。ここで登場する余因子展開の公式は、任意の第 $i$ 行(または第 $j$ 列)に沿って以下のように数式化されます。
$|A| = a_{i1}\widetilde{A}_{i1} + a_{i2}\widetilde{A}_{i2} + \cdots + a_{in}\widetilde{A}_{in}$ (第 $i$ 行による展開)
理屈を頭に入れたところで、具体的な余因子展開の計算例を通して、手順を身体化していきましょう。
3×3行列の余因子展開の実践
次の3×3行列 $A$ の行列式 $|A|$ を、第1行に沿って展開してみます。
$A = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 0 & 4 & 5 \\ 1 & 0 & 6 \end{pmatrix}$
第1行の成分はそれぞれ $a_{11}=1$、$a_{12}=2$、$a_{13}=3$ です。これらに対応する余因子を順に求めます。
- 第1行第1列の余因子 $\widetilde{A}_{11}$:
符号は $(-1)^{1+1} = +$。第1行と第1列を除いた小行列式は
$\begin{vmatrix} 4 & 5 \\ 0 & 6 \end{vmatrix} = (4 \times 6) - (5 \times 0) = 24$。
したがって $\widetilde{A}_{11} = +24$。 - 第1行第2列の余因子 $\widetilde{A}_{12}$:
符号は $(-1)^{1+2} = -$。第1行と第2列を除いた小行列式は
$\begin{vmatrix} 0 & 5 \\ 1 & 6 \end{vmatrix} = (0 \times 6) - (5 \times 1) = -5$。
マイナスの符号を掛けるため、$\widetilde{A}_{12} = -(-5) = +5$。 - 第1行第3列の余因子 $\widetilde{A}_{13}$:
符号は $(-1)^{1+3} = +$。第1行と第3列を除いた小行列式は
$\begin{vmatrix} 0 & 4 \\ 1 & 0 \end{vmatrix} = (0 \times 0) - (4 \times 1) = -4$。
したがって $\widetilde{A}_{13} = +(-4) = -4$。
求めた余因子を元の成分に掛けて合算します。
$|A| = 1 \times (24) + 2 \times (5) + 3 \times (-4) = 24 + 10 - 12 = \mathbf{22}$
なお、この行列は第2列に「0」が含まれているため、第2列に沿って展開した方が計算ステップ自体をさらに圧縮できます。常に「0が一番多く並んでいる行・列を探す」ことが要諦です。
4×4行列の行列式を突破する戦略
続いて頻出の4×4行列の行列式を扱う場合、いきなり全成分を余因子でバラそうとすると、3×3の小行列式を4つも計算することになり破綻します。実戦の定石は「行基本変形で0を極限まで増やしてから、その列で余因子展開して3×3行列へ落とし込む」複合技です。
例えば、ある1つの列の成分を $(3, 0, 0, 0)^T$ のように他行への足し引きで0に整えることができれば、余因子展開により瞬時に1階層下の「3×3行列式」1個へと還元できます。むやみやたらに余因子展開を始めるのではなく、下処理としての基本変形を挟むことがプロの解法です。