世界屈指のマスター・オブ・ワインたちが信州産のメルローやシャルドネをブラインドテイスティングした際、欧州の名醸地と見紛うほどのスコアを叩き出す場面がもはや珍しくありません。かつて生食用のぶどう栽培が中心だったこの地が、なぜこれほどの短期間で最高峰の醸造地へと登り詰めたのか。その原動力は、県が旗振り役となり策定した信州ワインバレー構想にあります。
信州の栽培地は、気候風土の特徴に応じて「千曲川ワインバレー」「桔梗ヶ原ワインバレー」「日本アルプスワインバレー」「天竜川ワインバレー」の4つに大別されます。なかでも、圧倒的な新規参入ラッシュが続く千曲川ワインバレーは、浅間山麓から北信にかけて水はけの良い礫質土壌と極めて少ない年間降水量を誇り、ピノ・ノワールやシャルドネの栽培において国内屈指のポテンシャルを発揮しています。一方、日本ワインの黎明期からメルロー栽培を牽引してきた塩尻ワイナリー群(桔梗ヶ原)は、重厚な果実味と緻密なタンニンを併せ持つクラシックな名作を生み出し続けています。
品質向上を決定づけた最大の制度的要因が、2002年に全国に先駆けて創設された長野県原産地呼称管理制度です。生産者自らが主導し、厳しいブラインド官能審査を通過したワインのみに認定を与えるこの仕組みは、「長野県産ぶどうを100%使用しているか」「品種特性やヴィンテージの特徴が純粋に表現されているか」を容赦なくふるいにかけます。ある中堅ワイナリーの醸造責任者は取材に対し、「審査会での落選は死活問題だが、この容赦のなさが信州全体の技術水準をわずか20年で世界規格に押し上げた」と語っています。