東京に隣接し、通勤通学圏として発展してきた埼玉県では、テレビや公教育で使われる共通語との差異が極めて小さいと一般に捉えられてきました。国語研究所や自治体の文化財調査の報告においても、南部のさいたま市や川口市などでは首都圏方言(新東京方言)への同化が急速に進んだ事実が指摘されています。しかし、これは「方言が消え去った」ことを意味するのではなく、「標準語と酷似しているため方言だと自覚されにくい言葉」として日常生活の深層に潜り込んでいるに過ぎません。
インターネット上の掲示板やSNSでは、「一人暮らしを始めて初めて方言だと知った言葉ランキング」のような話題が定期的にトレンド入りを果たします。その筆頭格として挙げられるのが、うめる方言埼玉の真相です。埼玉県民にとって「お風呂のお湯が熱いから、水を足して温度を下げる」行為は「お湯をうめる(ぬるくする)」以外の何物でもありません。しかし、関西や西日本はおろか、東日本の他地域出身者に対しても「お風呂うめておいて」と言葉をかけると、「お湯を埋葬するのか」「湯船を土で埋めるのか」と真顔で聞き返される事態に陥ります。
さらに代表的なのが、整理整頓を意味する「かたす」という動詞です。かたす方言埼玉の実態を言語地図から確認すると、東京下町から埼玉、群馬、栃木にかけての広域で自然に使われているものの、国語辞典における第一見出し語はあくまで「片付ける」であり、「かたす」は東日本を中心とした俗語・方言的表現に位置づけられています。埼玉県民の多くは、学校の教室や家庭で「散らかっているから早くかたしなさい」と親や教師から叱られて育つため、大人になるまで改まった標準語であると固く信じ込んでいるケースが目立ちます。
また、近年特に若者の間で話題となるのが、疑問や同意を投げかけるそうなん方言埼玉の浸透度です。関西圏の「そうなん?(語尾が上がる)」とはイントネーションが異なり、埼玉周辺では「そうなの?」「そうなんだ」の中間に位置するフラットかつわずかに語尾を投げ出すニュアンスで「あ、そうなん」と相槌を打ちます。他県の住民からは「関西弁のイントネーション崩れ」や「妙にぶっきらぼうで独特なトーン」と評されることが多く、地域固有の口語的リズムが無意識のアイデンティティとして息づいています。