明晰夢のトレーニングとして最も広く知られているのが「夢日記」ですが、ネット上では「夢日記を続けると発狂する」「気が狂って自殺した人がいる」といった物騒な警告が長年囁かれています。結論から言えば、オカルト的な呪いではなく、心理学および精神医学の観点から明確なリスクが存在するというのが真相です。
人間には本来、夢の記憶を覚醒後速やかに消去する脳内リセット機能(主に海馬の神経伝達物質遮断)が備わっています。これは「夢の不条理な出来事」と「客観的現実」が混同されないようにするための防衛本能です。ところが、夢日記の危険性の本質は、この境界線を意図的に破壊してしまう点にあります。
夢の記憶を詳細かつ強迫観念的に毎日記録し続けると、臨床心理学でいう「現実検討識(Reality Testing)」の低下を招きます。「昨日体験した記憶」が、現実の出来事だったのか、それとも夢日記に書いた妄想だったのかが瞬時に判別できなくなり、激しい離人感(自分が自分ではない感覚)や離人症的解離を訴えるケースが精神医療の現場でも実際に報告されています。
さらに、明晰夢で脳が疲れる理由もここに直結しています。熟睡期に休息すべき前頭前野を夢の中で稼働させ、起床直後からアドレナリンを分泌させて記憶をサルベージする行為は、脳の老廃物排出システム(グリンパティック系)の働きを阻害します。実践する場合は「1行程度の単語メモにとどめる」「週に2〜3回に限定する」「少しでも現実との境目が曖昧になったら即座に中断する」という安全弁を設けることが鉄則です。