多くの消費者が抱く「あの会社とこのブランドが同じマークなのは一体なぜなのか」という長年の疑問。その背景には、大きく分けて「歴史的な先後関係と平和的共存」「同一の原点から派生した枝分かれ」「事業領域の違いによる法的住み分け」という3つの明確な真相が存在します。決して単なる悪意の模倣やすべてが資本提携というわけではありません。
代表的な事例が、赤いスリーダイヤを掲げる三菱鉛筆と、三菱商事・三菱重工をはじめとする三菱グループの関係です。同じ「三菱」の名を冠し、マークも全く同じ形状に見えるため、大半の人が同じ財閥系列だと信じ込んでいます。しかし、両社には資本関係も人的交流も一切ありません。
この重複が生まれた歴史的経緯は、明治時代にまで遡ります。三菱鉛筆の前身である眞崎市川鉛筆の創業者・眞崎仁六氏が、自社製鉛筆の品質を誇る証として、家紋の「三つ鱗(みつうろこ)」などをモチーフに3つの赤い菱形マークを考案し、1903年(明治36年)に商標登録を完了させました。一方、旧三菱財閥が岩崎家の家紋「三階菱」と土佐藩主山内家の「三つ柏」を組み合わせてスリーダイヤを正式に商標登録したのは1914年(大正3年)のことです。
つまり、商標登録の時期としては三菱鉛筆のほうが11年も先でした。戦後の財閥解体時、GHQ(連合国軍総司令部)が三菱財閥の商号やマークの使用を厳しく制限した際も、三菱鉛筆は「財閥とは無関係の純粋な先発ブランド」であることが公的に証明され、マークの使用継続が認められたという記録が残っています。両者が争うことなく共存してきたのは、文房具と重工業・金融という完全に異なる事業領域で互いの存在を尊重してきた紳士協定の賜物と言えます。
また、ビクター(現・JVCケンウッド)と英HMVの蓄音機に耳を傾ける犬のマーク(ニッパー犬)も有名な重複事例です。これは画家フランシス・バローが亡き兄の愛犬を描いた名画『His Master's Voice』という同一の文化的原点を持っています。米グラモフォン社が絵画の権利を買い取った後、世界展開の過程で各国法人へ事業譲渡や商標分割が行われた結果、「イギリスやヨーロッパではHMV」「日本や北米ではビクター」が同じマークを使用するという、国際的な知財承継の歴史が背景にあります。