近年、読書界を震撼させ続けている『ジャンボマックス』は、高橋ツトムの真骨頂とも言える傑作だ。平凡で目立たない中年男が、非合法なED薬の密造に手を染めたことから、裏社会の濁流へと巻き込まれていく。一見すると巻き込まれ型のクライムノベルでありながら、描かれているのは「男の尊厳の回復」と「日常の裏側に口を開ける暗黒」だ。
誰もが共感しうる小さな欲望や引け目が、いつの間にか引き返せない巨大な犯罪へと肥大化していく。その過程を克明に追う視線には、善悪の境界を曖昧にする冷徹さと、どこか哀愁を帯びた人間味とが同居している。読者は主人公の危うい綱渡りに息を呑みながら、いつの間にか自分自身の心の底にある暗がりを覗き込むことになる。