平井堅という稀代のシンガーの卓越した歌唱力なくして、「瞳をとじて」がこれほどの説得力を持つことはあり得ませんでした。日本の男性ボーカリストの中でも群を抜く広い声域、そして胸声(チェストボイス)からファルセット(裏声)への無段階の移行技術は、音楽専門家の間でも常に絶賛の的となっています。
特に本作における平井堅のボーカルは、息の混ざり具合(ブレス成分)のコントロールが神懸かっています。Aメロでは、まるで耳元でつぶやくかのようなウィスパーボイスで喪失の痛みを語り、サビに向かうにつれて芯のある力強いトーンへと変化。感情が頂点に達した瞬間、切なくかすれるファルセットへと跳躍します。このダイナミクスこそが、聴く者の無意識の感情を揺さぶり、生理的な涙腺の崩壊を引き起こす技術的根拠です。
「楽園」「even if」「大きな古時計」「POP STAR」、そして近年では重厚な死生観を歌った「ノンフィクション」など、平井堅の代表曲は多岐にわたります。その中でも「瞳をとじて」は、シンガーソングライターとしての表現力と商業的成功が奇跡的なバランスで結実した頂点と言えます。メディア露出を厳選しつつ、アコースティック形式のライフワーク公演「Ken's Bar」を継続するなど、円熟味を増した表現活動は各方面から極めて高い評価を集め続けています。