本作の歌詞が放つ独特の風格は、山口一郎が幼少期から親しんできた「日本近代文学」のエッセンスに由来しています。タイトルから想起される川端康成の『伊豆の踊子』だけでなく、山口が敬愛する太宰治の作品群が持つ「人間の弱さ・みっともなさ」と「美しさの同居」が、言葉選びの端々に投影されています。
たとえば、〈ふと見た窓の景色は/変わらないようで 変わっていて〉というフレーズには、無常観と時間の不可逆性が平易な日本語で刻まれています。漢字とひらがなの視覚的バランス、音読した際の美しい母音の響き(ふりがなを振った際の七五調に近い語感)は、西洋的なロックのリズムと衝突することなく、見事な和洋折衷のグルーヴを形成しています。
ロックバンドが英語混じりの歌詞で躍動感を出す手法が主流だった邦楽ロック界において、徹底して純度の高い日本語表現にこだわった姿勢は極めて前衛的でした。「文学をクラブに持ち込む」という試みは、単なる言葉遊びにとどまらず、日本語ポップスの新たな地平を切り拓く契機となったのです。