長きにわたり読者を焦燥させた戴国の悲劇は、大長編『白銀の墟 玄の月』によって歴史的な局面を迎えた。黒麒・泰麒の命を削るような決断と、苛烈な雪原で繰り広げられた驍宗奪還の道程。偽王・阿選の虚無と嫉妬が生んだ惨禍の果てに示されたのは、天道とは決して全能の奇跡ではなく、過酷な現実の中で人間自身が選び取る意志の積み重ねであるという真実だった。
しかし、戴国の玉座が再び定まったとしても、残された謎はあまりにも多い。王と麒麟が背負う「失道」の構造的矛盾、いまだ語られていない他国の去就、そして天網の真意。新刊から時を経た現在もなお、熱心なファンの間では作中に散りばめられた伏線の検証が熱を帯びており、小野不由美が示唆した短編集の刊行をはじめとする新展開への期待は最高潮に達している。