なぜ居酒屋や割烹で食べるカサゴの姿揚げは、太い中骨や硬い頭骨まで心地よく噛み砕けるのでしょうか。「長時間揚げれば骨が柔らかくなる」と信じて高温の油で揚げ続けると、皮や身の水分が抜けすぎてパサつき、骨に到達する前に表面が炭化してしまいます。
骨まで食べられる仕上がりの核心は、カサゴの二度揚げにおける温度と揚げ時間の精密なコントロールにあります。魚の骨の主成分はリン酸カルシウムとコラーゲンです。硬い骨を脆く砕けやすくするためには、骨の芯に含まれる水分をじっくりと気化させ、骨組織をスポンジ状(多孔質構造)へと物理変化させなければなりません。
この現象を起こすための決定的なプロセスが次の2段階加熱です。
- 1度目の揚げ(低温脱水期):150〜160℃で7〜9分
低めの温度でじっくりと加熱します。油に入れた瞬間は細かな泡が勢いよく立ち上りますが、これは身の表面の水分が抜けているサインです。5分を過ぎると泡が次第に大きくなり、パチパチという水分の弾ける音が小さくなってきます。この低温調理によって、身のタンパク質が急激に収縮して硬化するのを防ぎつつ、骨の内部まで熱を行き渡らせて水分を極限まで蒸発させます。一度油から引き上げ、余熱で3〜4分休ませることで、骨の中心部まで熱を均一に浸透させます。 - 2度目の揚げ(高温香化・乾燥期):180〜185℃で2〜3分
休ませたカサゴを高温の油に再投入します。一気に表面の衣に残った余分な油と水分を飛ばし、皮目を狐色の美しい黄金色に焼き上げます。箸でカサゴの背骨あたりを挟んだ際、「ジリジリ」という硬質な細かな振動が手元にダイレクトに伝わってきたら完成の合図です。
骨内部が完全な空洞組織へと変化しているため、奥歯で噛んだ瞬間に「バリッ、サクッ」と小気味よく粉砕され、カルシウム特有の豊かなコクと旨味が口いっぱいに広がります。これこそが、プロが実践するカサゴの唐揚げをカリカリに揚げるコツの正体です。